2009.9/3ピーター・ビーツトリオ

 


さて、今回も去年の9月の話です。考えてみると、去年の9月にはこんなに沢山の海外ミュージシャンが来ていたんだと実感します。狂瀾怒涛の日々でした。
 今回は2009年9月3日に公演をしてくれたピーター・ビーツトリオのお話です。
彼らの公演はオランダ大使館が中心になって組まれたツアーに、オランダの若手として来日したものでした。ここライフタイム以外にも、東京JAZZにも、屋外ステージですが参加する予定になっていました。
 プロモーターから頂いた情報によると、オランダの国立音楽学校で、相当の成績を収めた俊英であること。ヨーロッパジャズなので、なんとなく哀愁があるような事が書いてありました。7月3日にヨーロピアンジャズトリオの演奏を聴いたばかりでしたので、きっとヨーロッパの哀愁漂う様なスタイルなのかなと考えて、チラシをつくり、宣伝をしておりました。
 当日、登場した彼らは、オランダ人らしく3人とも巨人といっていいような長身。
クラブに着いて、ピアノとドラムのセッティングを確認してもらうと、逆にならないかという話。いやな予感がしました。結果的にはいい予感でしたが・・・・。
 通常のピアノトリオのセットは客席から向かって左側にピアノ、真ん中にベース、右にドラム。私もこのスタイルです。でも、オスカー・ピーターソンやアート・テイタムの時代からの流れを汲むピアニストはその逆。ベースはピアノの鍵盤を覗き込むスタイル。ピアノとドラムとのアイコンタクトは不可能な形です。ピアノのワンマントリオといったこの形をリクエストされたのは、秋吉敏子さんのコンサートの時だけでした。
 急遽、セッティング変更を済ませてリハーサルが始まりました。なんと、完全なピーターソンです。本当に強力にグイグイとオン・トップで弾きまくります。ドラムもベースもピアノに食らいついていくように、3人全力で前進です。4コーラスでも5コーラスでもどんどん違うことが出てきます。凄い迫力。哀愁ではありません。メチャクチャ、ハッピー、ハッピーなトリオです。びっくりしました。
 お客様も私の宣伝文句でいらした方には申し訳のないことを致しましたが、うれしく期待を裏切られた、このスタイルを久々に聴いた、という方が多くて、大好評でした。
 終わって、彼らとプロモーターさんと近所のジャズ居酒屋「JAZZ8」で話をしました。
有線で流れてくる古くからのジャズのメロディーをこれはモンティーだ。これはミルト・ジャクソンだと大騒ぎです。彼に「オスカー・ピーターソンにそっくりだけど、そう言われてもいいのか?」と聴いてみると「光栄だ!」との事。是非、来年は「オスカーの再来」と銘打って宣伝をしたいところです。
彼いわく「ミルト・ジャクソンは大好きだ。絶対に一度もだめな演奏がない。いつも必ずスイングしている。一生スイングし続けて、いつかポックリ死にたいと」。
オランダ人なのに、このジャズメン魂!完全に脱帽でした。


 



Posted by オーナーピアニスト. at 2010年02月16日13:00

2009.9/2ヴィンセント・ハーリング

 


さて、この間から、ずっと去年のコンサートについての感想ばかり書き連ねておりますが、ライブの演奏を聴いた直後はそのミュージシャンの生の人間に触れてしまうという点で、相当興奮しているケースが多くて、かえってこの位、時間が経ってからの方がいいのかなとズボラの言い訳にしております。
 そんな訳で、今回も去年9月のヴィンセント・ハーリングの話です。
 ずいぶん昔から、ニューヨークのミュージシャンと深く親交を重ね、たくさんの共演暦を持つドラムの小林さん(ご自身もジャパニーズジャズメッセンジャーズを主催する素晴らしいドラムですが)からの話で、今をときめくアルトのヴィンセントのステージでした。
 アルトのコルトレーンといっても良いような音、吹く姿、目つきまでそっくり、ちょっと小柄かなと思うくらいで、この店にコルトレーンが現れたようです。音の太さはまるでテナーです。
ピアノのジルは洒落たパリジェンヌのような容貌からは、想像できないようなビバップ直系に新主流派までカバーするピアノをバリバリと弾きまくります。
ベースのエシュットは2008年の11月にジョン・ディ・マルチーノのトリオで当店に来た素晴らしいベースです。ベースを弾く前は素朴な感じを漂わせていますが、音楽が始まった途端に、まるで遠くを見つめる目つきに変わります。ここに心がないような感じです。
残念ながらスケジュールの都合で、ステージが終わったあと、皆で東京へ帰ってしまいましたので、ゆっくりとお話はできなかったけれど、実力者の本物を聴かせていただきました。






Posted by オーナーピアニスト. at 2010年02月11日16:00

2009.8/23ジョージ・ケイブルス&アナット・コーヘン





 さて、今回のブログも去年のお話です。去年来店したピアニストの中で、特に印象に残った一人にジョージ・ケイブルスが挙げられます。もともと、ビバップ以降、新主流派が台頭したちょっと後にニューヨークで台頭したミュージシャンの一人ですので、僕にとってはちょうど「錨を下ろしている」という表現を使うのですが、つまりジャズの歴史は長いので、デキシーの好きな人、スイングが堪らない人、ビバップしか受け付けない人というように、自分の青春時代の一番進んでいた音楽がなんといってもいい、いくら凄い今の音楽を聴いた後でも、自宅に帰って寝る前にしみじみ聴くのはその「錨を下ろした」時代の音楽ということになります。ちょうど彼の時代が僕がジャズのプレイに一番一生懸命になっていた時代の最先端でした。
 ですから、公演を決定するのは即決でしたが、今、彼がどんなプレイをするのかが不安で不安で当日を迎えました。腎臓の病気をしてしばらくアメリカ本国から出ていなかったことも、日本のジャズファンにはご無沙汰になっていた原因でした。
 さて、今回は、今、ニューヨークでも話題沸騰中のクラリネットの天才少女・・というにはちょっと年はとりましたが、アナット・コーヘンとの共演も予定されていて、静岡に入る前に秋田?のフェスティバルで共演してからこちらに来る予定でしたが、事前の情報でどうも秋田では一緒にやらなかったらしいのです。気が合わないのか?まあともかくこちらでは一緒にやってもらわないと困るわけです。
 で、まずトリオのリハーサルが始まりました。ドラムのウィナード・ハーパー、ベースのドウェイン・バーノとのトリオです。凄いです。いままで、ニューヨークから来たピアニストに感心する多くの点は、リズムの深さと長さです。ゆったりしていて長い、つまりレイドバックの方向で、日本人と違う!と感じる場合が多いのですが、ジョージのピアノはそれに増して、アタックの速さ、鋭さが凄い。ちょっと聴くと速すぎるのかと思いますが、ちゃんと長くて、ゆったりしている。このビートがあの時代のスピード感だったことに今更ながら気付かされました。
 さて、アナットとの共演です。ワンステージに2曲という話になり、まあ、しょうがないなと思っていたのですが、リハを始めてみたら、どうも気に入ったようです。
 クラリネットは楽器の性格上、なんとなくスイング時代の雰囲気を醸し出すケースが多い中、アナットのクラは本物のモダンクラリネット。このトリオに遜色なく、吹きまくります。天才の呼び声は本当でした。どこから来ても、どこまでもいける感じです。
 ドラムのウィナードはモスリム。アナットはユダヤですので、宗教上の問題はあるのかもしれませんが、火の出るような演奏です。ドラムの音色はうちのグレッチの本当の凄い音を限界まで引き出してくれました。凄いスリルです。 ベースのドウェインはこれぞニューヨークのベースというビート。
結局、ワンステージに2曲ずつの共演と、1曲ずつのアンコール計6曲の素晴らしいステージでした。




Posted by オーナーピアニスト. at 2010年02月09日17:00

2009.6/28、7/3ニッキ・パロットカルテット

このブログを書いている時点では、もう半年以上前ということになるのですが、
2009年は僕にとって、非常に厳しい年でした。そのことは追々お話しすることとして、
2009年の6月28日と7月4日にライフタイムで演奏してくれたニッキ・パロットの率いるカルテットのことを思い出しながら、書いてみたいと思います。



世の中に、ダイアン・クラールやジャネット・サイデルのようにピアノを弾いて、唄う歌手はたくさんいますが、ベースを弾きながら歌う歌手は、しかも女性で、なかなかいません。それでいて音楽がすばらしい人は、空前絶後でしょう。彼女とは3月にニューヨークで会いましたが、そのときには今は亡き超有名ギタリストのレス・ポールのバンドでベースのみを弾いておりました。ですからニューヨークでもベースプレイヤーとして一流です。
彼女の歌は何もかもが自然にはじまり、気持ちいいなあと思っていると、もうエンディングです。すべてが自然で、「ジャズってこんなに簡単にできるのかな」と思ってしまいます。ベースの腕もニューヨークの同僚ミュージシャンから折り紙が付く素晴らしさです。 
フォービートに移り変わるところの力強さと彼女の肩の筋肉たくましさ。(関係ないか?)でもとても美しい女性で、かわいい人です。性格も最高。ちょっと病気していたプロモーターにとても優しく接していました。
ジョンはいつもながらの、絶対に前へ出ない、レイドバックするピアノで、でもいつでも唄ってます。歌が絶え間なく、あふれ出てきます。やはりイタリア人の血なのでしょうか。彼のトリオの名前が「ロマンチックトリオ」なのが納得できます。
でも、彼と一緒にピアノをいじっていると、古くはファッツ・ウォーラーからチック・コリアまで、ありとあらゆるピアニストのスタイルを真似できます。そして、彼に言わせると「すべての歌手は顧客」ということになるように、歌伴ピアニストとしてニューヨークでも最高です。
アルトのゲリー・ケラーは渋くてビバッパーなのにちゃんと音楽の中にジャズのエッセンスを感じさせてくれました。
いつも思うことですが、ジャズの芸術性とエンターテイメントの素敵さが一緒になるとなんて素晴らしいのでしょうか。
ここで宣伝しても、きっと読まれないと思いますが、2010年の3月18日にジョン・
ディ・マルチーノがまたライフタイムに帰ってきます。ぜひこのピアノを聴いてください。




Posted by オーナーピアニスト. at 2010年02月08日11:00

2009.11/11椎名豊クインテット


椎名豊pデーモン・ブラウンtpティム・アマコストts本川悠平b広瀬潤次ds

 以前にやっていたライフタイムに出演して頂いたのがもう4年前。その時は男性ボーカルの唄伴のセッションでした。椎名さんの本領の部分で是非出ていただきたいと思っていたのですが、そのチャンスがやってきました。しかも、テナーは、今や僕にとっては世界一といっても過言でないティム・アマコストです。本当にわくわく待ち遠しいライブでした。その期待に背かない素晴らしい演奏で応えていただきました。イギリスから迎えたデーモンのラッパはケニー・ドーハムを思わせる、仕立ての良い音色、正統派です。そして、テナーのティムのいつも前進し続けているテナー。椎名さんのピアノも新しいものに挑戦している気概にあふれています。リズムの二人、本川さんと広瀬さん。ティムが「この二人はいつニューヨークに連れて行ってもどこでもOKだ。」といっていたように、ワールドクラスです。日本人、アメリカ人、イギリス人。ジャズの世界に国境が無いことを証明してくれたようなステージでした。
今回のこの組み合わせはとりあえず一度解散とのことですが、このバンドは本当にすごい。もっと時間がたっても、このバンドは凄かったと語り伝えてゆきたいと思います。



Posted by オーナーピアニスト. at 2009年11月11日23:00

2009.11/4 鳥越啓介(B)田中信正(P)藤井学(Ds)

今回のライブはいままで何度となくサイドメンとしてライフタイムに来ている鳥越啓介さんのリーダーライブです。お客様は少し寂しい水曜日の夜でしたが、彼のオリジナルとジャズマンオリジナルからの選曲でステージが始まりました。スタン・クラークの曲から始まり、トトロット、追想、パット・メセニーのトラベルズ、そしてケルト風のエセケルト、雨系かな、フュージャン、秋風、ラ・ダンサ・デラ・パッションの曲目。「秋風」が本当に美しかった。
藤井さんは何をやってもこなしてしまう名手、田中さんの個性的であるときはアグレッシブ、あるときは本当に叙情的なピアノ、そして素晴らしいテクニックをもちながら、お茶目な心とピュアな感性が同居している鳥越さん。
こんな三人が集まると、どんどんジャズの範疇からはみ出して行くのですね。
色々な方向性をおもちゃ箱みたいに聞かせてもらいました。


Posted by オーナーピアニスト. at 2009年11月04日23:00

ブログスタートします。

静岡市紺屋町に2年前にオープンしたJAZZCLUB lifetimeのオーナー兼ピアニストの久保田です。静岡に本格的なjazzclub が必要だとの思いからスタートしました。
 内外の有名・無名ミュージシャンの真剣な演奏を皆様に提供してきました。 その演奏を聴いて、感じたJAZZへの薀蓄・感想・裏話なんでもありのブログです。


Posted by オーナーピアニスト. at 2009年10月28日14:32

2009.8/14 大隈寿男(Ds)ハクエイ・キム(P)生沼邦夫(b)

いつでもハッピーなドラムス。JAZZって楽しい!!と思わせてくれる大隅さんのステージ。今回は若手の中でも白眉とされるハクエイ・キムさんのピアノでCD の発売ツアーで訪れてくれました。
 JAZZでも音楽全体の応援団といえるのがドラムス。アート・ブレーキーのように常にビートと元気と楽しさを与えてくれる存在。そして、やはりブレイキーのように若手ミュージシャンに活躍の場を与えるのも、その大きな役割。
ハクエイさんの今を追及するピアノが何も恐れずに突っ走ると、生沼さんのベースはその時代の差を埋めるようにステディにトリオをリードして行きます。
いつまでもダンディーなおじ様でハッピーなJAZZをお願いします!大隅さん。


Posted by オーナーピアニスト. at 2009年08月14日23:00

2009.8/9 安ヵ川大樹プレゼンツ高田ひろ子トリオ

ベースの安ヵ川さんが新しいCDレーベルを立ち上げて、その記念すべき最初のCDとして白羽の矢を立てたのが高田ひろ子さん。彼女のピアノは聴いたことが無く、じっくりと送って貰ったCDを聴いて出演をお願いしました。
最近の日本のジャズ界では、美人女性とか、天才少年、天才少女を追いかける傾向があって、実際のステージとなると少し心配な部分もあるのです。
でもCDを聴いて、確実にすごいと思いました。
さて、このトリオは安ヵ川さんの上質でありながら、深みのあるベース、そして、ある若手のミュージシャンに言わせると「希望の星」橋本学さんをドラムに、緊密で、激しくて、仕立てがよくて、本当に何でもっと売れないのだろうかと思うほど素晴らしい演奏でした。
彼女のオリジナルの持っている深くて上品な味わい。スタンダードナンバーで見せるスリリングなトリオの離合集散。何をとっても国際1級です。
是非、このトリオがどこかで出ていたら、絶対にお薦めです


Posted by オーナーピアニスト. at 2009年08月09日23:00

2009.8/7菅野邦彦グループ


菅野さんは僕の永年のアイドルです。30年前から聴いています。ずっと真似してピアノ弾いています。今回のコンサートは、菅野さんが開発した12音全部フラット鍵盤の初お目見えです。普通は白鍵・黒鍵から出来ているピアノの鍵盤。それが全て同じ幅で並んでいるのです。つまり、全ての指のミートポイントは、全てストライク、という音に対する菅野さんのこだわりが作り出したピアノです。そして、12の調が同じ条件で奏でられるという利点があります。いや、有利、不利なんていう次元でなく全く別の楽器です。それを弾きこなしている菅野さん。白黒鍵盤であれだけ凄い演奏を何十年もしてきたのに、この鍵盤で挑戦するそのこだわり。完全に脱帽です。
 でも、音楽はやっぱりあの最高のスガチン節、2ビートから4ビートに移り変わる瞬間の、まるで滑走路から離陸して行く飛行機を思わせる浮遊感。何処まで飛んで行っちゃうのだろうか?思いもかけず訪れる静寂と突然のユーモアと、いつまでもドキドキするこの感覚が菅野さんのJAZZ です。
 ドラムのササキさんはその離陸の瞬間の醍醐味がたまらなくてしょうがないらしい。高梨君のベースがそのピアノに寄り添いながら、瞬間瞬間の音楽を驚きながら楽しんでいます。一緒にやったらたまらないだろうな~。


Posted by オーナーピアニスト. at 2009年08月07日23:00