さて、今回のブログも去年のお話です。去年来店したピアニストの中で、特に印象に残った一人にジョージ・ケイブルスが挙げられます。もともと、ビバップ以降、新主流派が台頭したちょっと後にニューヨークで台頭したミュージシャンの一人ですので、僕にとってはちょうど「錨を下ろしている」という表現を使うのですが、つまりジャズの歴史は長いので、デキシーの好きな人、スイングが堪らない人、ビバップしか受け付けない人というように、自分の青春時代の一番進んでいた音楽がなんといってもいい、いくら凄い今の音楽を聴いた後でも、自宅に帰って寝る前にしみじみ聴くのはその「錨を下ろした」時代の音楽ということになります。ちょうど彼の時代が僕がジャズのプレイに一番一生懸命になっていた時代の最先端でした。
ですから、公演を決定するのは即決でしたが、今、彼がどんなプレイをするのかが不安で不安で当日を迎えました。腎臓の病気をしてしばらくアメリカ本国から出ていなかったことも、日本のジャズファンにはご無沙汰になっていた原因でした。
さて、今回は、今、ニューヨークでも話題沸騰中のクラリネットの天才少女・・というにはちょっと年はとりましたが、アナット・コーヘンとの共演も予定されていて、静岡に入る前に秋田?のフェスティバルで共演してからこちらに来る予定でしたが、事前の情報でどうも秋田では一緒にやらなかったらしいのです。気が合わないのか?まあともかくこちらでは一緒にやってもらわないと困るわけです。
で、まずトリオのリハーサルが始まりました。ドラムのウィナード・ハーパー、ベースのドウェイン・バーノとのトリオです。凄いです。いままで、ニューヨークから来たピアニストに感心する多くの点は、リズムの深さと長さです。ゆったりしていて長い、つまりレイドバックの方向で、日本人と違う!と感じる場合が多いのですが、ジョージのピアノはそれに増して、アタックの速さ、鋭さが凄い。ちょっと聴くと速すぎるのかと思いますが、ちゃんと長くて、ゆったりしている。このビートがあの時代のスピード感だったことに今更ながら気付かされました。
さて、アナットとの共演です。ワンステージに2曲という話になり、まあ、しょうがないなと思っていたのですが、リハを始めてみたら、どうも気に入ったようです。
クラリネットは楽器の性格上、なんとなくスイング時代の雰囲気を醸し出すケースが多い中、アナットのクラは本物のモダンクラリネット。このトリオに遜色なく、吹きまくります。天才の呼び声は本当でした。どこから来ても、どこまでもいける感じです。
ドラムのウィナードはモスリム。アナットはユダヤですので、宗教上の問題はあるのかもしれませんが、火の出るような演奏です。ドラムの音色はうちのグレッチの本当の凄い音を限界まで引き出してくれました。凄いスリルです。 ベースのドウェインはこれぞニューヨークのベースというビート。
結局、ワンステージに2曲ずつの共演と、1曲ずつのアンコール計6曲の素晴らしいステージでした。